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タイのエンターテイメントが好きだという方で、ナノン=コーラパット・クッパン(NANON-Korapat Kirdpan)の名前を知らない人は少ないかも知れない。それほど、タイの俳優の中では人気の高い存在であり、日本のメディアにも何度も取り上げられている。とはいえ、タイが好きであっても、タイのエンターテイメントを知らない人はまだまだ多い。そんな人たちのために、彼のキャリアについて少し触れておく。
NANONの芸能活動のキャリアはなんと生後3ヶ月。CM出演をメインに子役としての活動を経て、2013年オファーを受けタイの大ヒットドラマシリーズ『Hormones 2』で俳優デビュー。2016年以降はドラマ出演すればほぼ主演という華やかなキャリアが続いていく。
日本で注目されたきっかけは2021年。コロナ禍のおうち時間に動画配信サービスで人気が高まったタイのBLドラマの一つ『Bad Buddy』の主演。ライバル同士の関係から、恋心へと変わっていく心理描写を繊細に表現したNANONの演技は、日本の視聴者の心をがっちりと捉えた。
そんなNANONだが、近年はミュージシャンとしての活動に力を入れている。 GMMTV RECORDSからシングル曲をリリース後、定期的に楽曲はリリースされていたが、『Bad Buddy』でのOSTで歌唱力や表現力が注目された。
2022年にはタイの音楽専門Webラジオ局「Cat Radio」が主催する大型野外音楽フェス「Cat Expo」に初登場し、以降連続して出演。またドラマ制作とプロダクションがメインだと思われていた彼の所属するGMMTVの傘下に、2023年、RISER MUSICなるレーベルが設立されたことから更に音楽活動が活発化。2023年11月にはアルバム『THE SECRETS OF THE UNIVERSE』がリリースされた。
GMMTVはGMMグラミーの傘下の一つだが、グループ会社の各レーベルには、優れた楽曲を提供できる環境が揃っており、NANONのアルバム制作チームにはURBOYTJ、Tilly Birdsのボーカル Thirdsなど、現在のタイの音楽シーンを牽引するメンバーが集結。恵まれた環境の中でも、NANONは別名であるTRIPLE. Nとして、作詞、そして作曲の一部にも参加する音楽への情熱を見せている。
母国タイでのインタビューで「音楽を通じてファンと感情を共有し、ファンと繋がりたい」と答えるほど、音楽を愛するNANONが、2023年タイフェスティバル東京から2年の時を経て、代々木公園のメインステージに帰ってきた。
しかも同じGMMTV RISER MUSICのメンバーが東京で初めてレーベル単位でのステージを披露する『T-POP SHOWCASE IN TOKYO』の出演も含めた日本での公演。
タイランドハイパーリンクスではタイフェスティバル東京2025のステージを終えたばかりのNANONにインタビュー。今彼が目指している理想の音楽のカタチとは?
ナノン=コーラパット クッパン
นนน-กรภัทร์ เกิดพันธุ์ NANON-Korapat Kirdpan
https://x.com/mynameisnanon
https://www.instagram.com/nanon_korapat/
https://www.facebook.com/nanonkorapat/
ーータイフェスティバル東京のステージお疲れさまでした。楽しめましたか?
NANON:すっごく楽しかったです!同じレーベルの仲間やGMMTVのメンバーと一緒にライブができたし、仲間とコラボレーションができたことが良かったですね。
ーー2023年にもタイフェスティバル東京に出演していますよね。その時と比較するとどうですか?
NANON:今回は2023年よりかなり賑やかでした。Krist-Singto、Namtan- Film、LYKN、Tay-New、Milk- Loveそして僕です。たくさん出演しましたね。GMMTVのメンバーと一緒にライブができて楽しかったです。
ーー今日は音楽フェスのコラボステージみたいに、NANONさんが中心になって盛り上げていましたね。『T-POP SHOWCASE IN TOKYO』もSNSを見ていると相当盛り上がっていたようですね。
NANON:想像以上に楽しかったです。日本のファンの皆さんが、本当にあたたかく受け入れてくれて、感謝しています。
ーー今日は5月にしては日本は暑い方なんですよ。日差しも強かったですね。ライブ中、快適に過ごせましたか?
NANON:雨よりは全然マシですよ。みんなが風邪を引かなくて良かったです。確かに日差しはあるけれど、僕たちタイ人には丁度いい感じ。
ーーサバイサバイですか?
NANON:…(笑)はい。サバイサバイです。えっ?これ暑い方なの(笑)?今日は何度ですか?
ーー25度です。
NANON:…(笑)。タイなんか今、40度くらいありますよ!
ーー40度で同じステージを屋外でやったら、命の危険がありそうですね(笑)。
ーーお父様が俳優だったと聞きました。
NANON:そうそう。
ーー俳優になったのはお父様の影響があるんですか?
NANON:いや、全然影響はないです。小さなころからCMには出演していたんですけど、自分の意志ではなく、芸能界で働きたくもなかったですね。その後、今の事務所からオファーがあって所属しました。家の家計の足しになればいいなあと思って(笑)。
ーーNANONさんというお名前はチューレン(ニックネーム)ですか?
NANON:チューレンです。
ーーどういう意味なんでしょう?
NANON:「ノンタブリーにて」という意味です。祖母の実家がノンタブリーにあるので。
ーーそうだったんですか。ノンタブリーには今もよく行きますか?
NANON:祖母が今も住んでいるのでよく行きますよ。サンダードームもノンタブリーにあるので、仕事でもよく行きますね。
実はちょっと改名しています。最初はナノンと読むけど「ณนนท์(ノンタブリーにて)」(ノーネーン「ณ」の「ณ」を「ナ」と読んで、意味は「にて(英語のat)」)と書いていましたが、その後は「นนน(ナノン=全部同じ音の表記)」と改名しました。「น」を3つに並べたのは、理由があるんです。
ナノン(NANON นนน=僕)ニン(Ning หนิง=お母さん)、ノンニー(Nonnie นนนี่=妹)で、3人の頭文字に「น」を使っているので、3つのนにしました。3つの「น」は家の中心という意味合いを込めています。
ーーあれ?NANONがタイ語でもนが3つ並ぶとして、英語表記にしてもNが3つ並ぶんですね?
NANON:そうです。
--えー?面白いですね。タイ語のチューレンの発音表記や意味が興味深いです。
NANON:英語にするとNNNが3つ揃うので、僕の別名はTRIPLE.Nです。
そして母の家族も全員ノーヌー(น)ですよ。หนึ่ง(ヌン) หนิง(ニン) หนุ่ม (ヌム)。
--それだけ揃えられるのは凄いですね。
ーー最近はミュージシャンのお仕事が目立ちますね。目標にしているアーティストや好きなアーティストはいますか?
NANON:日常的に音楽をよく聴いているので、最近好きなアーティストがどんどん増えていますね。日本のアーティストだと藤井風、YOASOBI、それからONE OK ROCK。
ーーONE OK ROCKはタイ人に大人気ですね!
NANON:ああ、それと、ヨロシク!
ーー え…(爆笑)?
NANON:ヨロシクじゃない…(笑)。
ーーヨルシカ。
NANON:ああ!ヨルシカ(笑)。
ーー日本のアーティストに詳しいですね。驚きました。
NANON:ある時期に日本の音楽に凄くハマっていたんですよ。たくさん聴いていました。だから結構詳しい方じゃないかと思いますよ。
それからCreepy Nutsも好きですね。アニメのオープニングになった曲が好きです。『ダンダダン』のオープニング『オトノケ』と『マッシュル-MASHLE-』のオープニング『Bling-Bang-Bang-Born』。
ーーライブでギターを弾くことが多いと思うんですけど、 ブルーのギターを弾いていますよね。
NANON:ブルーは僕のイメージカラーとしてファンの皆さんに定着しているんですよ。ただ僕自身、今はどんな色が好きかは、よくわかりません(笑)。 気分や時期によって好きな色って変わるものですからね。
ーーどこのブランドのギターを使っているのですか?
NANON: 今、主にJames Tyler(ジェームスタイラー)のギターを使っているんです。
ーーギターは何本持っていますか?
NANON:2本持っています。James Tylerの青色のストラトキャスターと、FENDERテレキャスターカスタムの黄色。これから赤とか他の色も欲しいなあと考えています。すべてのメーカーや、違う種類のギターを集めて、ギターコレクションしようと思っているんです。
ーー全てのメーカー?凄い!そのうちファンの方も、NANONさんのギターコレクションをステージで見ることができますね。
NANON:もっと沢山の曲でギターを聴かせられるように、練習しています。
ーーNANONさんは、先ほど教えてくれた別名義のTRIPLE.Nで曲をUPしていましたよね?
NANON:ああ!URBOYTJさんとのプロジェクトですね。スタジオでよく仕事をする機会が多かったんですよ。それで、featuringの機会をお願いして、活動していたものです。
ーーURBOYTJさんの曲が好きなんですよ。だから凄く驚いたんですよ。それに聴き心地が良かったので、またYouTubeに曲が上がらないかなー?なんて期待していました。
NANON:あー(笑)。実は…短期のプロジェクトだったんですよ。TRIPLE.Nは自分がどんな音楽を極めていきたいのか?っていう事が理解できる機会でした。これからNANONとしての音楽活動に取り入れていけるんじゃないかな?そういう実験的プロジェクトだったんです。
ーーそうだったんですね。今後どんな形で取り入れていけそうですか?
NANON:これまで僕が歌ってきた曲はジャンルが色々混ざっていたんですよ。自分がやっていきたい音楽ジャンルがそういった経験を経てわかってきたので、まずは、自分の好きなスタイルの曲にジャンルを絞っていこうと思っています。自分らしい曲をリリースしたり、ライブで演奏していきたいですね。
ーーもしかしてもうそのための作詞作曲をしているとか?
NANON:ありますよ。
ーーそれは今後が楽しみですねー!
ーー今回、日本は何日くらいいられたんですか?
NANON:明日(去る5月12日)帰ります。でも今回は5月8日から日本にいたから、5日間は日本にいられました。
ーー少しは楽しめましたか?
NANON:本当はまだまだ目一杯、日本を楽しみたいんですけど、でも、仕事があるので帰らなきゃいけないんです。
ーー日本が好きなんですね。プライベートで日本に来る時にはどんな楽しみ方をしていますか?
NANON:日本は大好きですよ。たくさん来てるからなあ(笑)。一番最近プライベートで旅行で来た時は、大阪と東京をまわりました。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行って、ディズニーランドに行って、好きな物をたくさん食べに行って、おもちゃを買って(笑)。
ーーめちゃくちゃ楽しんでるじゃないですか。私のイメージではNANONさんって、タイの大型音楽フェスやイベント、特に年末のカウントダウンシーズンなんて、びっくりするようなスケジュールを組んでいるじゃないですか?お休みがないのかと思っていました(笑)。
NANON:休みはある、ある(笑)。最近は時間の管理もできるようになって、運動もしてるし、早寝早起き!
ーー健康的ですね。
ーー今回日本でこれだけはやっておきたいという事はありますか?
NANON:あります。子供の時に憧れていた戦隊物シリーズや仮面ライダーのCSM(仮面ライダー変身ベルトなど、大人向けのなりきりアイテム)、DX(子供向けのなりきりアイテム)、SMP(シーンを再現した大人向けプラキット)ですかね。
--も、もしかして中野ブロードウェイの「まんだらけ」に行くとか?
NANON:そうそうそうそうそうそう!
--日本人にとってはオタクの聖地ですが、タイではクールな場所とされているような気が…。
NANON:あはは(笑)。買いたいものがどこにあるか、実際の場所がわからないから ネットでチェックするんです。そしたら中野ブロードウェイの「まんだらけ」に行かないと手に入らないってことがわかったんですよね。
--NANONさんが「まんだらけ」にいるイメージがあまり沸いてこない(笑)。でも、楽しんでください!
--NANONさんのバンコクでのプライベ―トは、どんな感じなんでしょう。例えば息抜きできる場所はあるんですか?
NANON:一時期アクアリウムにはまっていましたよ。年パスも持っていました。暇なときに「ぼーっ」と水槽を眺めながら、仕事の事とか、色々考えられる時間を作っていました。
ーーリセットできそうですね。
NANON:そう。静かだし、気持ちのリセットや切り替えに丁度良いんですよ。
ーー我らが目にするNANONさんはスタイリストさんがコーディネートしているスタイルだと思うんですけど、私服のファッションはどんな感じなんですか?
NANON:ストリート系ですね。ファッション誌を参考にしています。レザージャケットを着たりするのが好きかな。
ーーワイルドな感じなんですね。
NANON:そう。ワイルド系のファッションは好きですね。ストリート系でもちょっとロック寄りが好きです。
ーーミュージシャンとしてのお話を中心に聞いてきましたが、俳優としてのお仕事はありますか?
NANON:ドラマシリーズがオンエアされますよ。5月17日からスタートします。4EVEのMindさんと共演します。
ーーミュージシャンと俳優の切り替えはいつもスムーズにできますか?
NANON:ふふ。僕は俳優としてはベテランなので、演技への切り替えは簡単なんですよ。
ーーさすが!
ーー将来こうなりたいという目標はありますか?
NANON:うーん。具体的な目標は、ソロコンサートですかね。タイだったらインパクトアリーナ。それからワールドツアーをやってみたいです。あっ!日本だったらいつか東京ドームでコンサートができたらいいなあー。
最近楽曲の再生数が伸びてきているんですよ。だからソロコンサートはやりたいって思っています。
ーー意外です。ソロでのコンサートってなかったんでしたっけ?
NANON:ソロコンサートの経験はあるにはあるんですけど、規模が小さいものですね。大規模なソロコンサートツアーを、いつかやってみたいと思ってます。
ーーこれからの音楽活動やドラマ出演を楽しみにしている日本のファンの皆さんにメッセージをお願いします。
NANON:また会えると思います!絶対に会えると思いますよ(笑)。僕の曲を色々聴いてみてください。ドラマも見てくださいね!
当たり前のように家族の話が出てくるタイ人らしいあたたかさと、日本の戦隊物ホビーの話をする時の楽しそうな少年の表情。タイの人気俳優であり、ミュージシャンであるNANON Korapatの素の一面を知る貴重な機会となった。
ギターコレクション欲もしかり、彼はプライベートも遊びも仕事も全力だった。本気で音と向き合い、楽しみ、仕事を演技に切り替えることは簡単だと笑う。
さらりと言うが、これまで多くの学びに時間を費やしたに違いない。ギタープレイにしても相当力を注いでいるはずだ。しかしなぜだろう、彼には陰で行っているはずの「努力」「頑張り」「苦労」みたいな重さを外に出さない余裕がある。
インタビューの中で話していたドラマ『I Love “A Lot Of” You』は現在オンエア中。NANONの役柄は4EVE(タイを代表するガールズグループ) Mind演じる解離性同一性障害の女性の人格5人全てを惚れさせる使命を受けた男性というユニークな設定。Mindの役は人格がころころと変わってしまうエキセントリックな役であるがゆえに、NANONの抑えめかつ自然な演技が光っていた。
タイフェスティバル東京でミュージシャンとしてのステージを見た直後だったため「いや、この人は凄いな」とつぶやいてしまうほど、彼の言う「切り替え」は鮮やかだった。
これからも俳優としてミュージシャンとして全力で楽しませてくれそうなNANON Korapat。次の一手を我々も楽しみに待とうではないか。
[取材・文:吉田彩緒莉(Saori Yoshida/Interview・text)]
[通訳:Boy In Tokyo]
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