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渡泰した2026年1月下旬、テレビをつけた瞬間のことだった。タイは「タイのバンド史上初」となる快挙に沸いていた。それは、人気バンド Three Man Down が、収容人数約3万人のSuphachalasai国立競技場での大規模単独公演を即日完売させ、追加公演のチケット販売を発表したというニュースだった。
他のチャンネルに変えても同じ報道が流れ、筆者は驚愕しながらただテレビ画面を見つめるしかなかった。
2日間で6万人を動員するコンサートを、フェスなどではなく単独バンドのソロ公演として開催することは、タイのバンド史上初の出来事だ。数々のアワードを受賞してきた彼らにとって、この公演成功は、それまで築き上げてきた彼らの人気を、揺るぎないものとして証明するもの。彼らはそれを成し遂げ、タイ人の誰もが認める真の国民的バンドへと駆け上がった。
その渡泰からわずか2か月半後、Three Man Downがタイフェスティバル東京2026の幕開けを飾る『The 26th Thai Festival Tokyo Special Concert』に出演することが決定した。
筆者の頭に最初に浮かんだのは「代官山UNiT」のキャパ600という数字だった。在住のタイ人だけでなく、熱心なファンがタイから日本まで飛んでくるに違いない。何せ、スタジアムクラスを動員するアーティストを、キャパ600の近距離で観られるのだから。日本のT-POPファン、そして彼らの楽曲『City (ข้างกัน)』がGeminiFourthによってカバーされたタイBLドラマ『My School President』のファンも集まるだろう。さらに、本編のタイフェスティバルにはスケジュールの都合上出演しない……。そうなればソールドアウトは確実だった。
やはりと言うべきか、当然と言うべきか、公演は公演日に余裕を持ってソールドアウトとなった。
購入できなかったファンのことを思うと胸が痛むが、これは次回公演のための「実験」だったのかもしれないとも思えてしまう。
タイ本国で社会現象を巻き起こすほどの人気を誇り、名実ともに国民的バンドとなった Three Man Down は、果たしてどんなメンバーなのか。インタビューせずにはいられない。
我々は公演当日、代官山UNiTへと向かった。

--タイで今最も人気のあるバンドの皆さんにお会いできて光栄です。
一同:(いやいや…という謙遜の仕草)
--自己紹介として、現実のパート担当と、キャラクター的なポジションを教えてください。もし「それ、違うだろ!」と思ったら、他のメンバーがダメ出しをしてください。
kit:(笑)わかりました。ボーカルのkitです。僕のキャラの担当は、お茶目(キーレンขี้เล่น )かなぁ~(みんなの顔を見渡す)?

Kit (キット)Krit Jeerapattananuwong
Thay:かなり近いね。でも、それを超えてくると、レン・キーになっちゃうから、うんこで遊ぶ人になっちゃう(爆笑)
※注)タイ語の「キー」は「クソ」にあたり、日本の「クソ真面目」などの表現に似ている。言葉を強調する場合や時にはポジティブではない場合にも使われる。この場合、「レン」は遊びに当たるため、遊び心のある人、お茶目な人と訳される。でもそれが逆になると…とんでもない意味になってしまう(笑)。
一同:爆笑
Seng:タイ語のダジャレです(笑)
Toon:ギターのToonです。僕は真面目です。本当に真面目です!

Toon (トゥーン)Peerapon Iamjamrat
kit:ほんとにそう、もうどれくらい真面目かって言うと…
Toon :ちょっと、自己紹介は僕の番だから
--ああ、こんな感じなんですね(笑)。
一同:笑
Seng:キーボード担当のSengです。静かで内向的で、ひと見知りです…。僕は優しいですよ。

Seng (セン)Wisarut Pathomsiripaisan
kit:確かにそうなんだけど、この人、絶対外せないのは「酔っ払い」だから。
一同:そうそうそう!もう凄い酔っ払い(笑)
--大変穏やかそうな雰囲気なんですが、飲むと態度が豹変したりするんですか?
kit:酔うと全然内向的じゃないよ!「みーんな友達ぃ」みたいになっちゃう!
Seng:あー、でも、僕はお酒を飲む日は特別な日しか飲まないよ。まあ、でも、人生って、毎日が特別な日じゃないですか!
一同:爆笑
--それ、毎日お酒飲んでいるってことですよね(笑)。
Thay:(爆笑しながらSengの肩を叩く)僕はドラムのThayです。パワフル担当です。力使うけど頭は使わない(笑)。

Thay (テー)Thaythanan Wongpreechachok
kit:「ヒロアカ」のバクゴウみたいな奴ですよ。(笑)※『僕のヒーローアカデミア』爆豪勝己
--『僕のヒーローアカデミア』?
Thay:『ドクターストーン』のめちゃくちゃ力の強いやつとか。名前忘れちゃったけど。
kit:Thayは近々、東京マラソンに出場したいらしいんですよ。
Thay:人生初のマラソン大会は東京で走りたいんです。
--でも、Three Man Downは今ものすごく忙しいから来日して走るのはスケジュール的に大変なのでは?
Thay:まあ、プライベートの時間なので走ります。
--先ほどから例えが日本のアニメなんですけど、一般的な日本人よりアニメに詳しい気がします。
kit:僕はめちゃくちゃ沢山、日本のアニメを見ていますね。日本人はアニメを見ないんですか?
--日本人は凄くアニメが好きな人と、全く興味がない人に分かれているような気がしますね。ある一つのアニメや話題になった作品は見るけど、全体的に網羅はしていないという人も多いですし、多種多様かも?

--今年の1月下旬に偶然バンコクにいたんですが、テレビの話題がThree Man Downの3月のスタジアムライブが即完売したというニュースばかりでした。どのチャンネルに変えても同じなんですよ。
追加公演をいれて2日間完売と言うことは、6万人分動員ってことで、これはワンマンのタイのバンド史上、初なのではないですか?
kit:バンドとしては史上初みたいですね。過去にバード・トンチャイとマイケルジャクソンがソールドアウトしてるんですって。
--マイケル・ジャクソン、バード・トンチャイ、そしてThree Man Down!いや、本当に凄いことですよ。
kit:えっ?バード・トンチャイを知ってるんですか?
--知ってますよ。タイのアーティストで初めて買ったCDがバード・トンチャイでした。。
一同:おお(拍手)…。
kit:ところで、タイにはどれくらい来てるんですか?
--65回から70回の間くらいですかね。タイが好きなので。
kit:ろっ、65回!?
一同:(爆笑)。
kit:僕も日本が大好きです。他のメンバーも日本に来てると思うんだけど、僕は個人的に1年に1、2回は必ず日本に遊びに来ています。
--かなりまめに遊びに来てるんですね!驚きました。ステージから見える光景ってどんな状態なんでしょう。3万人ですよ。3万人いる光景って、これまでのステージから見た景色と全然違うと思うんです。
kit:えーっと…実はその時は、真っ暗で何も見えなかったんですよね(笑)。
--えー?
kit:物凄くライブに集中していたっていうのもあって、何も聞こえない、何も見えない(笑)。でも終わった後に動画を見て「うわあ、こんなにたくさん人がいたんだぁ?」って感動しました。

--そうだったんですか!
タイのバンド史上初、と言うことを成し遂げただけに、このコンサートの日本での触れ込みは「タイの国民的バンドの初日本公演」だったんですよ。海外でタイのトップのバンドとして「国民的」と言われることについてはどう思いますか?
kit:日本で「タイの国民的バンド」と言われているなんて、本当にうれしいです。
日本のアニメ、ショッピング、それと日本の音楽が大好きだから、今、東京のコンサートを前にとても緊張してますよ。
--そうだったんですか?日本の音楽はどんなアーティストを聴いていますか?
Toon :ONE OK ROCK!
kit:僕もONE OK ROCK。
Seng:藤井風!
kit:ThayはONE OK ROCKのメンバーと握手したことあるんだよね。
Thay:そう。TAKAと握手しました。誰かのコンサートに行ったときに偶然会ったんです。

--Three Man Downは 大学在学時に結成したと聞いたことがあるんですが、誰が最初に「バンドやろう!」って声をかけたんですか?
Thay:自然な流れでしたね。僕とToonは「絶対にこの大学でボーカルを探す!」って決めていたんです。
Toon :(頷く)
kit:それで「僕はこの大学で絶対にドラムを探す!」って決めていたんです。
Toon:Sengはおまけです(笑)。コーヒー飲んでる時に「やる?」って聞いたら「やる」って。
Seng:おまけです(笑)。
--(笑)…。そんなおまけだなんて!誘いやすい雰囲気も運命の一つだと思いますよ(笑)。もう一つ気になるのは、Three Man Downのバンド名の由来ですね。
kit:これはPCゲームの「Heroes of Newerth」からですね。3人敵を倒すと「Three Man Down!」って叫ぶんですよ。そこから取りました(笑)。
--結成してから、2019年に『ฝนตกไหม(Fon Tok Mai)』が爆発的にヒットするまで、少し時間がかかりましたよね?この間は「しんどいなぁ」と思うこともあったのでは?
Toon:ヒットするまではかなり時間がかかりました。もう何の希望も持てない(苦笑)。みんなフリーランスの仕事をしながら、バンド活動を続けている感じで、レストランやパブで演奏していました。そんな中で『ฝนตกไหม(Fon Tok Mai)』は何も考えずに気軽に作ったら大変なヒットになりました。

kit:バズるまでは7年間くらいかかって、2018年からGene Lab(GMM Grammy傘下)と契約したから、当時は早く売れなきゃというプレッシャーもあったんですよ(笑)。
『ฝนตกไหม(Fon Tok Mai)』で売れなかったら終わりなんじゃないかなって思うくらいの時期でした。本当に売れてくれてよかったです(笑)。
--やはりどんな大物バンドでも下積みがあるんですねえ。
昨年、Three Man Downの出演するサイアムスクエアのイベントに友達が連れていってくれたんですよ。
kit:ええ?ほんと?(拍手)
--とにかくZ世代のファンが男性も女性も丁度半々くらい。タイの若い人の心をぎゅっとつかんでいる印象を受けました。詞や曲に彼らの心をつかむヒントがあるのでしょうか?
Toon:僕の場合、結構曲によってシチュエーションが違いますかね。実は『ฝนตกไหม(Fon Tok Mai)』は新海誠監督の『天気の子』からインスピレーションをいただいて、作った曲です。
--えー?それは日本人にとっては大変うれしいことですね。
Toon:よく聴くと『天気の子』のBGMにこの曲が重なる部分があるんですよ。
--帰宅したらすぐに聴き比べます。

新しい活動についてもおうかがいしたいのですが、日本でもデビューを果たしているBUS(BUS because of you i shine)のPEEMWASUさんとの曲『เพื่อนสนิท (Platonic Love) – Three Man Down Feat. PEEMWASU OF BUS』が今年1月にリリースされていますが、きっかけは何だったんですか?
kit:タイでSNSを見てるとPEEMWASUって必ず出てくるんです。面白い動画とかファッションコーデの紹介とか、何かと話題になる存在なんです。
僕がゲームのストリーミングをしていて、ある時、BUSのメンバーも参加するっていうゲームのイベントがあったんですよ。僕も出演したんですけど、すぐにPEEMWASUが出てきて「あっ!これはコラボしてみたい」って閃いてしまったんです。
すぐ事務所に正式のオファーを出しました。
--バンド自体の活動はもちろんですが、タイはコラボ企画が多いので、今後どんなアーティストと組むのかも楽しみです。

--ところで、今日のライブ、割と早めにソールドアウトしたことは知ってますか?
kit:えっ?そうなの?
Thay:僕知ってる!僕はスケジュール管理担当なので(笑)。

kit:それは、本当に嬉しいですね。僕がタイ以外でライブ出演したい国はずっと日本だったので、その日本で会場がソールドアウトできるっていう実績は本当に信じられないくらい嬉しいですよ!
--おおー!そんなに喜んでもらえるなんて、私たち日本人も嬉しいです。それにタイのトップバンドがタイ以外なら日本って言ってくれるなんて光栄すぎて(感涙)。
kit:僕はアジアの中で日本の音楽シーンがナンバー1だと思っています。タイのバンドはなかなか海外に行けるチャンスがなくて、本当にいい機会で嬉しかったです。
--今後も日本公演はしてくれますか?
kit:もちろん!機会があったら喜んで。日本人はタイ料理が好きですか?
--好きな人がとても多いですよ。
Seng:日本人はシンハービールが好きですよね。

--大好きな人が多いです。私は大好きです(笑)。
kit:タイ人は和食が大好きです。タイでは本当においしい和食は高価なので、日本に旅行に来て本物の和食を食べようと思うんですよね。
どちらもお互いの国が好きで、興味深いし感動しています。
--この記事はライブが終わった後に公開されるので、ちょっと難しいと思いますが、今日来てくれているファンの皆さんにメッセージをお願いします。
kit:本当に日本は僕たちの大好きな国です。インドネシアやマレーシア、タイに近い国での公演は行ってきたんですけど、日本に公演に来れたことは僕らにとって特別です。
それはやっと僕らの音楽が、大好きな日本まで届いたんだなあって思うから。
チャンスがあればまた日本に来たいです。僕たちをサポートしてくれて、本当にありがとうございます.
ライブじゃなくても、僕は秋葉原に行きます(笑)。
Thay:日本は世界のアーティストが必ずツアーに入れる目的地の一つじゃないですか。僕らもそこに来れたことが本当にうれしいです。ありがとうございます。
--ライブ前の忙しい時間にありがとうございました!

一度、彼らのライブをサイアムスクエアで見たことがある。その時はkitのオーディエンスの目をぐっと力を込めて見つめながら歌うボーカルスタイルに、ただただ圧倒されてしまった。一人ひとりに訴えかけるようなその姿勢がタイ人の心にストレートに入って来るのかもしれない。
そのステージの迫力と打って変わって、目の前で話しているインタビュー中のkitは、まるで永遠の少年のような明るさと、飛び切りのキュートさを併せ持つ魅力的な青年だった。
メロディメーカーであり、理知的なToon、穏やかで場を和ませるSeng、「自分は力技だけ」と謙遜しながらスケジュール管理やチケット売り上げを把握しているしっかり者のThayと、集結すべきメンバーがそのまま引き寄せられたような4人だ。
日本人にわかるようにと、アニメにたとえて話をしてくれる彼らの日本のアニメに対する知識の深さには感銘を受けたが、最も感動したのは、彼らの運命を変えた大ヒット曲『ฝนตกไหม(Fon Tok Mai)』が新海誠監督の『天気の子』にインスピレーションを受けたという秘話だろう。
日本との「良い縁」があまりにも深いThree Man Down。この縁が続かないわけはない。
「やっと日本に僕らの曲が届いたんだ」というkitの言葉は、音楽ほど国境なくどこまでも自由に飛んで行けるものはないと教えてくれる。
音楽の翼が、また彼らを日本に運んできてくれるよう願いつつ次の公演を楽しみに待ちたい。
[取材・文:吉田彩緒莉(Saori Yoshida/Interview・text)]
[通訳:PATAVEEPANNAPAT PANSASI]
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Three Man Down
https://www.youtube.com/@threemandownbandofficial
https://www.facebook.com/threemandownofficial
https://www.instagram.com/threemandown/
[Three Man Down 招聘元]
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