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タイ映画『ユースフル・ゴースト』ある日、死んだ妻は“掃除機”の姿で帰ってきた ラッチャプーム監督訪日登壇 舞台挨拶イベント

2026年7月12日 配信

2025 年、カンヌ国際映画祭<批評家週間>にタイ映画として初選出&グランプリ獲得!アカデミー賞(R)国際⻑編映画賞タイ代表にも選出、各国メディアから「ジャンルでは括れない」「驚くほど独創的」と異例の注目を集めたタイ映画『ユースフル・ゴースト』。この度、初日舞台挨拶が行われ、来日したラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク監督監督が登壇。作品の着想からタイ社会へのまなざし、そして映画に込めたテーマについて語りました、

タイ映画『ユースフル・ゴースト』主演ウィットサルート・ヒンマラート単独インタビュー 7月10日公開
タイ映画『ユースフル・ゴースト』ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク監督インタビュー 7月10日より日本全国公開



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物語の舞台は、粉じん公害が深刻化するタイ・バンコク。最愛の妻・ナット(ダビカ・ホーン)を呼吸器疾患で亡くしたマーチ(ウィットサルート・ヒンマラート)は悲嘆に暮れる日々を送っていた。ある日、ナットの魂は掃除機に宿るかたちで舞い戻り、ふたたび愛を確かめ合う二人。その頃、マーチの家族が経営する工場では、死亡した従業員の霊が機械に取り憑き、操業停止に追い込まれていた。霊に悩まされる家族や社会から拒絶されたナットは、工場の除霊に協力することで、夫への真実の愛そして自らの存在を“役に立つ幽霊”だと証明しようとするが……。

タイでは誰もが知る怪談「メー・ナーク・プラカノーン」(死後も現世にとどまり、夫と禁断の愛を深めていった女性“メー・ナーク”にまつわる物語)に着想を得たという本作。

タイ映画『ユースフル・ゴースト』の初日舞台挨拶が行われ、来日した監督が登壇。作品の着想や幽霊表現、タイ社会へのまなざし、そして作品に込めた想いについて語った。

まずMCから日本公開初日を迎えた率直な心境を聞かれると、監督は「自分自身、日本映画がすごく好きで、観ている作品も多いので、今回こういう機会があってとてもうれしいです。日本の観客の皆さんがこの作品を温かく迎え入れてくれることを祈っています」と挨拶。

本作の最大の特徴である<なぜ幽霊が掃除機に憑依>する設定になったのかと聞かれると、監督は「洗濯機より撮影が簡単だったからです(笑)」と冗談を飛ばしつつ、その経緯を説明。

「最初は掃除機に幽霊を憑依させるというアイデアはなかったんです。資金集めのためにピッチングをしていた時に、『君の作品の幽霊はどんな見た目なんだ』と聞かれました。最初は俳優にそのまま演じてもらって、青白い顔や灰色っぽい顔にメイクしようと思っていたんですが、『全然面白くないし、オリジナリティがない』と言われたんです」

そこで監督は映画史における幽霊表現を調べ始めたという。

「例えば80年代のアメリカ映画、『ポルターガイスト』のような作品を見ると、幽霊は単純に青白い顔をしているわけではなくて、日用品や電化製品に入り込んでいました。人間は幽霊の姿を見ることはできないけれど、窓が勝手に開いたり、テレビがついたり、水道の蛇口が開いたりする。そういう、人間になりそうで人間ではないものに興味を持つようになったんです」さらに「声は聞こえるけれど姿は見えないとか、姿は見えるけれど触れられないとか、ほとんど人間のようだけれど人間ではない、”人間として十分ではない存在”として描かれる。そういった幽霊表現にも関心があった」と振り返り、「電化製品や日用品に幽霊を宿らせるアイデアにどんどん興味を持っていき、その中で突き詰めていった結果が掃除機だった」と明かした。

また、主演のダビカ・ホーンの衣装や髪色が掃除機のデザインとどこか共鳴しているように見えることについて質問されると、監督は自身にとっての幽霊のイメージを交えながら回答。

「幽霊というのは、本来いるべき場所ではないところから現れる存在だと思っています。死んだ人が戻ってくるわけですから、いるべき場所から外れてしまった存在なんです。その意味で、多くの映画作品でも幽霊の髪の色はあまり自然ではない形で表現されていると思います」その上で、「ダビカさんの衣装や髪色も、不自然さや偽物っぽさを出すためにああいうデザインにしています」と説明。「自分は80年代のオフィスルックにすごく興味があって、肩のフォルムが過剰に強調されるなど、全体のバランスがおかしいものが多い。そうしたデザインと、幽霊がオフィスルックで働きに来ているという要素を重ね合わせて、あの印象や色合いにしました」と語った。

これまでのタイ映画における幽霊表現との違いについて問われると、「この作品は、これまでのタイ映画とは幽霊の扱い方が違うと思っています」とコメント。特に病院で掃除機が登場する場面について、「脚本は何度も改稿したんですが、病院のシーンだけは最初から最後まで残っていた」と明かし、「あのシーンのポイントは、周囲の人たちが幽霊をあまり特別視しないことなんです」と説明、「タイ映画では幽霊は基本的に怖いものとして描かれてきました。怖い存在だから人間に悪さをする。でも、もし幽霊が怖くなかったら何をするんだろうと考えたんです。幽霊が幽霊としての機能を果たさなかったらどうなるのか。その発想から、あの作品における幽霊の扱い方が生まれました」と語る。

さらに監督は、本作の背景にあるマイノリティの問題についても言及。

「タイ社会におけるマイノリティの人たちは、いるようでいないような存在として扱われていると思っています」「社会の中にどうにかフィットしようとするんですが、そのためには交換条件が必要になる。つまり社会にとって役に立つこと(ユースフル)をもたらすことが求められて、その条件を満たした人だけが社会の中に入ることができる。そういう存在として扱われていると感じています」

そうした考えはキャスティングにも反映されているという。

「この作品ではエキストラのキャスティングの段階から、さまざまなマイノリティの人たちに出演してもらいました。小人症の方、車椅子を利用している方、ムスリムの女性などです。その人たちが権力のメカニズムの中でどういうふうに機能しているのかを、この作品の中で示したいと思っていました」と明かす。

そして「私は中華系の家系です。祖父は1949年頃にタイへやって来た人でした。当時は国民としての身分証も与えられておらず、警察に毎日のようにお金を取られていたそうです。1日20バーツずつ取られていたという話も聞いています」と自身のルーツについて語り、一方で現在の状況については、「私たちの世代になると、中華系の人々はタイ社会の中でかなり中産階級化し、経済的な余裕も持つようになりました。そして同時に、非常に保守的な存在にもなってきている」と指摘。

「権力の側に近づいた中華系の人たちが増えた結果、今度は自分たちがかつて置かれていた立場と似た状況にある人々、例えばミャンマーから来た労働者たちを差別するようになっている。自分たちが周縁にいた経験を利用して、権力の側に入った後にマイノリティのチャンスを広げるのではなく、逆に抑圧する側になっているんですと言う。

そして監督は、こうした構造はタイ社会におけるLGBTQコミュニティにも通じると語る。

「LGBTQの人たちも権力を持つようになると、自分たちがかつて持っていた周縁性を制度の拡張や包摂のために使うのではなく、さらに小さな立場の人たちを抑圧するために使ってしまうことがある。そういう状況が存在していると思っています」そして、「タイ社会は、小さくて弱い人たちを自分たちの道具にすることが非常にうまい社会だと考えています」と懸念する。

MCからは、本作で重要なモチーフとなっている2010年のタイ反政府デモ弾圧事件について質問が投げかけられた際に「2010年の虐殺事件は、自分自身がリアルタイムで経験した出来事でした」と振り返った監督。

「タイ社会には、1976年10月6日<血の水曜日>事件や1992年の<暗黒の5月事件>など、国家による暴力を伴うさまざまな事件があります。しかし、自分はその頃まだ幼かったり、生まれていなかったりしました。2010年の出来事は、そうした事件の中で初めて自分自身がリアリティを持って経験した出来事だったんです」

自身は現場にいたわけではないものの、「ニュースやメディアを通して、その空気や雰囲気は十分に伝わってきていました」と語り、「私にとっては非常に暴力的な事件として記憶されています」と続けた。

一方で、「事件が起きたのはバンコク中心部のサイアム地区でしたが、その後も政府はこの出来事に対して十分な態度を示していません」と指摘。現在も遺族たちが自主的に追悼集会を続けている状況にも触れ、さらに「ビッグ・クリーニング・デー」に言及す。

「虐殺の直後、バンコクでは『ビッグ・クリーニング・デー』という有名なイベントが行われました。一般市民や芸能人、政治家らが集まり、亡くなった人々の血痕を掃除するボランティアイベントです。私はそれを見ていて、とても奇妙なことだと思いました」

そうした出来事は長く心に引っかかり続けていたが「ただ、それをどう表現すればいいのか分からなかった。この作品でようやく使うことができました」述べつつ、さらに本作を構想する過程で、1932年の立憲革命についても考えていたと明かす。

「1932年、人民党による立憲革命によって、タイは絶対王政から立憲民主主義体制へ移行しました。その時代の人々は民主主義の象徴としてさまざまな建築物や記念碑を残しました。しかし、この10年ほどで、それらが明らかに組織的な形で撤去されたり、移設されたり、名前を変えられたりしているように見えます」

特に有名な事例として、革命を記念するプレートがある日突然、王室を称えるプレートに置き換えられていた出来事を挙げ「誰がやったのかも分からないし、その日に限って監視カメラが壊れていたと言われています。非常に疑わしい出来事でした」と懸念し、こうした歴史的記憶の消去への危機感が、本作にも反映されていると語る。

「過去の出来事の記憶がどのように継承されていくのかは、この作品で考えなければならないテーマでした。劇中でドクター・ポールの家に各界のVIPたちが集まり、『いろいろな時代の幽霊に悩まされている』と語る場面がありますが、あれは2010年の虐殺だけを指しているわけではありません。2010年の出来事もあれば、人民党の記憶もあるし、1976年10月6日の大学生虐殺事件もある。タイ社会に残されたさまざまな歴史の記憶、その“幽霊”たちに悩まされている状態を表現したシーンなんです」と言い、最後MCは「タイ社会の文脈と重ねて観ることで非常に批評性の高い作品である一方、日本社会に引きつけて考えることもできる。記憶の継承や、市民と権力の関係など、普遍的なテーマも含まれている」とまとめた。

その後は観客との質疑応答が開催。

本作のヨーロピアン・ビスタを思わせる画面サイズや色彩設計について質問されると、監督は「映画が人工的に作られたものであることを観客に意識させるのが好きなんです」と回答、「『今、自分は映画を観ている』と感じてもらいたい。作品世界も現実と地続きにしたくないので、演技もあまりリアリスティックにはしていません」また、劇中で時代設定が曖昧になっていることについても触れ、「登場人物は誰も携帯電話を使いません。時代の流れから少し外れた人々を描いているとも言えます」と語った。

別の観客から、複数のゲイカップルが自然に登場することについて質問されると、「ヘテロセクシュアルのカップルと数を合わせようとまでは考えていませんでしたが、ゲイの登場人物はたくさん描きたいと思っていました」と説明。「今のタイはBL作品のイメージが非常に強く、ゲイカップルがロマンチックな恋愛をする人たちとして描かれることが多い。でも私はそれだけではない役割を持ったゲイカップルを描きたかった。スリラーや社会批評の文脈の中にも登場してほしかったんです」とコメント。

劇中に使用される音楽についての質問には「オリジナル楽曲と既存楽曲の両方を使っています」と回答「撮影中は音楽を一切使わないつもりだったんですが、最初の編集版を観て『これは絶対に音楽が必要だ』と思い」当初はさまざまな楽曲を仮置きしながら編集を進めたという。

「私は19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパ音楽も好きなんです。岩井監督の映画『リリイ・シュシュのすべて』でドビュッシーが使われているのも好きなんですが、本作ではドビュッシーは少しドラマチックになりすぎると感じました。その中でラヴェルに行き当たり、編集で使ってみると夢のような響きがあった。冒頭やマーチが夢の中に入っていくシーンなどでは、そうした感覚を取り入れています」その上で、「そうしたイメージや条件を作曲家にも共有しながら音楽を作ってもらいました」と制作過程を振り返った。

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監督:ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク

1987年、バンコク生まれ。潮州・海南系の出自を持つ。チュラーロンコーン大学映画学科卒業。現在もバンコクを拠点に、スタジオでフルタイムの脚本家として働き、商業映画やテレビシリーズの脚本を手掛けている。脚本執筆の他に、大学で映画理論や脚本術を教え、映画批評家としても活動している。2020年、ベルリナーレ・タレントプログラムに選ばれ参加。短編映画『赤いアニンシー; あるいはいまだに揺れるベルリンの壁をつま先で歩く』は2020年ロカルノ国際映画祭に選出され、国際コンペティションでジュニア審査員賞を受賞。最近ではタイの植民地史とポストコロニアルの状況をテーマに、さまざまな長さの映画シリーズを作るプロジェクトに取り組んでいる。

【作品情報】『ユースフル・ゴースト』
 【コピーライト】© 2025 185 FILMS, HAUT LES MAINS, MOMO FILM CO.
監督・脚本:ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク
出演:ダビカ・ホーン、ウィットサルート・ヒンマラート、アパシリ・ニティポン、ワンロップ・ルンカムチャット、ウィサルット・ホームフアン ほか
2025|タイ語、英語、イサーン語|タイ、フランス、シンガポール、ドイツ|130分|原題:ผีใช้ได้ค่ะ(英題:A Useful Ghost)|字幕翻訳:橋本裕充|タイ語監修:福冨渉|R15+

配給・宣伝:SUNDAE(Powered by Filmarks) 

公式サイトhttps://sundae-films.com/useful-ghost/
公式X https://x.com/usefulghost_jp
公式Instagram https://www.instagram.com/sundae_films/

7月10日(金)より全国ロードショー

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