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タイで興行収入30億円超を記録し、2023年の年間ランキング1位に輝いた映画『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件』が、2025年9月26日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次公開されます。イサーン地方の文化や儀式を取り込み、ホラーとコメディが交差する独自の世界観は、観客を笑わせながらも不思議な余韻を残す一作。そんな話題作から、ティティ・シーヌアン監督のオフィシャルインタビューが到着しました。
インタビューでは「ただのホラーではなくサッパルーを描きたかった」という制作秘話や、マーケティングの視点からコメディを融合させた理由、そして日本への思いまで、貴重なお話が語られています。インタビューの通訳を担当したのは、本作で字幕監修を担当した高杉美和さんです。

ティティ・シーヌアン監督
――この映画が生まれたきっかけや、インスピレーションの源を教えてください。
この映画は「ホラー映画を作ろう」という前提で始動したプロジェクトで、僕が所属する制作会社(タイバーン・スタジオ・プロダクション)にとって初めてのホラー映画です。タイの映画界ではホラー映画、特にホラーコメディがたくさん作られており、それはジャンルとしての人気が高く、興行収入を期待できるからです。
ところが脚本を書き始めてすぐ、ただのホラー映画では面白くないと気づきました。そこで、これまでタイ映画ではほとんど描かれてこなかったサッパルーを題材にしようと考えたのです。サッパルーは葬儀を取り仕切り、遺体を整える役目の職業で、魂に最も近い人だと認識されていますが、その実態や仕事ぶりは取り上げられてこなかった。ただの葬儀屋ではなく、火葬を控えた遺族の気持ちを癒す役割があるはずだと思い、サッパルーを通して死や喪失について描くことにしました。

――タイでは興行収入7億バーツ(約30億円)以上の大ヒットになりました。人気の理由をどのように分析していますか?
この映画を企画していたのは、ちょうどタイの映画ビジネスが落ち込んでいた時期でした。観客が映画館に足を運ばなくなり、制作会社が倒産し、コロナ禍があり、配信プラットフォームの人気が高まっていたのです。そんな中で映画を撮ることになったので、「みんなはどんな映画を観たいんだろう?」と考えました。そして、観客はどんな映画を好み、どれくらい観ているのかを分析した結果、「コメディは絶対にウケる」と確信したのです。そこでホラーやSF、ラブストーリー、人間ドラマなどのさまざまなジャンルを一本の映画に盛り込み、コメディと融合させました。ここまでの大ヒットは予想外でしたが、最大の要因はそういったマーケティングにあったと考えています。

――ストーリーに監督自身の経験が反映されたところはありますか?
僕自身の経験を強く反映しているのは「家族の関係」だと思います。イサーンの子どもたちは、両親がバンコクに出稼ぎに行くことが多く、その間は祖父母の家に預けられるんです。その結果、祖父母と孫の絆はとても深くなりますが、両親は出稼ぎ先からお金を送ってくるだけ。そうした現実の生活や家族関係を描いたことが、イサーン出身の観客の心に響いたのかなと思います。

――本作の「イサーンらしさ」はどのような点にあると思いますか?
なによりも、ほとんど全編イサーン語のセリフで展開すること。また、イサーン特有の生活や信仰、儀式、迷信を描いたことです。僕は子どもの頃からイサーンで数々の儀式を見て、さまざまな疑問を抱いてきました。なぜ古い世代の人々は信仰や儀式を大切にしているのか、それは何のためなのか――。自分なりの答えが出たものもあれば、そうではないものもありますが、映画を撮ろうとしたときにそうした疑問を思い出しました。だからこそ、イサーンの文化を描くことで、今の若い世代にも疑問を持ってほしかったのです。決して文化を否定する意味ではなく、現実に存在するものとして理解しようとしてほしい。同時に、失われつつある文化を愛おしく思い、悲しむ気持ちもあります。

――さまざまな人種・民族のキャラクターが登場しますが、これもイサーン地方のリアルな民族構成を反映したのでしょうか?
はい。イサーン地方には民族的に多様で、さまざまな国や地域から人々が移り住んでいます。そうした姿が映画で描かれることはほとんどありませんが、この映画ではイサーンで暮らす外国人の生活も見せたいと思いました。

――そのほか、一般のタイ映画とはどんな違いがあると考えていますか?
個人的には、大きな違いはそれほどないと考えています。あえて挙げるとすれば、作り手たちがみんなイサーン出身であること。そして、この小さな制作会社(タイバーン・スタジオ・プロダクション)が懸命に映画を作り、メインストリームに打って出ようとしているところです。

――この映画には日本語や「TOKYO」Tシャツなど、日本のモチーフがいくつも登場します。特別な意味があるのでしょうか?
まず、この映画は「タイバーン・ユニバース」というシリーズの一つで、それぞれストーリーは独立していますが、新作の『タイバーン3』は彼らがラープ(イサーン料理)の店を日本で開く物語になる計画なんです。だから今回は、『アベンジャーズ』(12)などのマーベル・シネマティック・ユニバース作品に倣って、今後の作品に日本が関わってくることをいろいろな部分で暗示することにしました。

――日本には何度か来られているそうですが、どのようなところが好きですか?
日本は静かなところがいいですね。気候も良いし、ガヤガヤしていないし、食べ物だってなんでもすぐに食べられる。イサーンと似ているのは、暮らそうと思えば気楽に暮らせるところかなと思います。仕事があればするし、田畑があれば耕す。金持ちを目指さずとも、日々を幸せに暮らせればいいという雰囲気を感じます。僕はタイにいると滝のそばに何時間も座っていることがありますが、そういう場所にも似ていますね。日本映画もたくさん観ていて、人物や情景の描写がシンプルで、かつ家族の関係を丁寧かつ立体的に描いているところが好きです。特に『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)は大好きですね。

――シアンは元カノに会うために幽体離脱しますが、監督がいま会いたい人は誰ですか?
おばあちゃんに会いたいです。先ほども言ったように、イサーンでは多くの両親が出稼ぎに行くので、僕も子どもの頃はおばあちゃんに育ててもらいました。だけど、おばあちゃんは僕がまだ小さい頃に亡くなってしまった。だから成功した姿を一目見せたいし、おばあちゃんのごはんをもう一度食べたいです。そのために幽体離脱はしないですが(笑)。

――製作中の続編はどんな作品になるのでしょうか?
この映画のためにリサーチをしたことで、物語が膨らみ、続編を作ることになりました。続編は死後の世界を舞台に、「死んだ人たちはどこに行くのか?」を描きます。主な登場人物はほとんど同じですが、新たに2人のキャラクターが加わり、SF色もさらに濃くなって、よりパワーアップした作品になります。2025年8月末にクランクアップしたばかりで、タイでは2026年12月に劇場公開される予定です。
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会いたくて❤幽体離脱。
タイ東北部のイサーン地方。霊の存在を信じるこの土地で、妊婦バイカーオの亡霊を目撃する住人が多数あらわれる。しかし、同じ街に住む元カレのシアンのもとには一向に姿を現さない…。どうしてもバイカーオに会って話がしたいシアンは、街でただ一人の葬儀屋のもとを訪れ、幽体離脱の術を伝授してくれと頼み込む。霊体になってバイカーオのいる死者の世界(マルチバース)へ向かおうというのだ!老い先の短さを自覚している葬儀屋は、息子と共にこの街の葬儀屋を継ぐことを条件に指南を開始するのだが
――。街を騒がす元カノの本当の目的とは一体!?
亡霊となった元カノのため、いざ死霊の世界へ!?
監督は、本作を含む独自の世界観を描いたタイバーン・ユニバースで一躍その名を知られることとなったティティ・シーヌアン。第19回大阪アジアン映画祭では監督・キャスト揃って来日し、「幽霊はマイフレンド」との監督の発言が会場を沸かせたことも記憶に新しい。ホラー、マルチバース、ドラマ、コメディと様々な要素が絡み合いながら生み出される独特の高揚感で、小規模上映から全国へ拡大して異例の大ヒットを記録した本作。舞台となるイサーンはタイの東北部にある地方。「撮影中もずっと霊の存在と共にあった」、というくらい霊との共存が当たり前に受け入れられているその地域で、現代では見られない独自の儀式、方言、文化をベースに制作され、本国で大きな注目を浴びた。異色の作品であるにも関わらず、口コミでその魅力が広まり興行収入はなんと7億バーツ、日本円にして30億円越えの特大ヒットを記録!タイの2023年の興行収入ランキングで堂々の一位に輝いた奇跡の作品だ。
監督・脚本:ティティ・シーヌアン
出演:チャーチャイ・チンナシリ、ナルポン・ヤイイム、アチャリヤー・シータ、スティダー・ブアティック、ナタウット・セーンヤブット
製作:Thibaan Studio Production
プロデューサー:サチャット・ブンゴースム、スパナット・ナムウォン、スラサック・ポンソーン
エグゼクティブ・プロデューサー:シリポン・アンガサグンキアット、コムクリット・ピパットパヌクン
撮影監督:クリッティデート・グラジャーンシー
編集:チュティポン・ラックホーム、ティティ・シーヌアン、ピタヤー・ニンラープ
プロダクション・デザイン:アヌソーン・ゴーシリワット
衣装:アカリン・アマリットターウォン
サウンド・デザイン:アートサナイ・アートサクン、サチャット・ブンゴースム
サウンド・デザイン(イサーン民俗音楽):ティティ・シーヌアン、キティチャイ・ピウプイ、プマナン・パンプーウォン、チラユ・スパッティ、チェッター・タクラングリアン、アーロム・ロートプラパン
英題:The Undertaker
原題:สัปเหร่อ
字幕翻訳:大沢晴美、ワイズ・インフィニティ
字幕監修:高杉美和
協力:大阪アジアン映画祭
後援:タイ国政府観光庁
配給:インターフィルム
【2023年/タイ/タイ語(イサーン語)/125分/2.39:1/5.1ch/DCP】
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